2010年冬。3年生の終盤に差し掛かったある日。
40人からなるクラス一体がどこかそわそわとしていて、浮足立った空気を醸し出していた。
「1F見てみたけど、まだ張り出されてないな」
「16時じゃなかったっけ?」
「それガゼじゃねぇの?」
だだっ広い教室にざわめきが走る。
この日、某国立大学の理工学部では、配属先の研究室が発表されるのだ。
そんな歯か痒くて痒くて仕方がない雰囲気の中、ぼくだけは違った。
ぼく「なるようになるだろ。ほら、座っておとなしく待ってろよ。
・・・
・・・
・・・
・・・
え、え?!出た?ほんと?まじ? …な、な、なんだよ。うそか。お、驚かせんなよ…」
違わなかった。
だって、怖いもん。
正直、苦笑いしか作れなし、そわっそわよ。…もう。
その先数年間、自分がやりたいことができるかどうかを決めるのは、 結局のところ成績次第なわけっすよ。
別に、そんなシビアさに、ビビったりしてるんじゃないんだからね!
ぼくは入学してから堕落していた1年半を巻き返すために、
怒涛の追い上げを見せ、 そこそこ頑張ったんだ。
まぁ、ほら多少は、朝起きたら授業終わってたことはあったり、たまに遅刻したり、
寝落ちしたりすることはあったよ。…ん?
いや、そういうことが言いたかったんじゃなくて、
えーと、あれだ。女子数人から『鼻ちょうちんの人』ってあだ名付けられてるぞって人伝えで聞いてびっくりしたことがあったわけ。理由聞いたら、寝落ちしてホントに鼻ちょうちんできてたんだってさ!!スゴくない?!マンガかって!ハハハ!(実話)
まぁ……とにかく頑張ってたんだよ!
だから、研究室が10個あるうちの、第3希望までのどこかに引っかかっていることをただ祈っていたわけですよ。
奇跡なんてどうせ起きないからね。一番行きたいとこに…!なんて言わないさ。
そして…
「張り紙出てるぞ!!」
「まじで?!」
「見に行こうぜ!!!」
ついに…時は満ちた。
20歳過ぎの野郎集団がまぁ元気に走る走る。
理工系って何するにもいちいち絵面汚いんだよなぁ。
「うぉおお!よっしゃぁああ!!」
「おれ、第10希望のとこだわ…」
一喜一憂する男たち。
正確に言うと、男:女=9:1だけど。
「まじか!お前と一緒か!!しゃぁあ!」
抱き合うなよ、絵面汚いんだから。
そして、ぼくは、、、、
第2希望のところに決まったのだ!
よっしゃあああ!!見たか!鼻ちょうちん作っても好きなとこ入れるんだぜ!
(結構根に持ってた)
もともと電子工学系なのですが、そのなかでも音声認識の装置を作るという、クリエイティブそうな所でした。
今やSiriとか、Googleのやつとか、Amazon Echoとかが世に出ていて、発展しきっていて「何が新しいの?」って感じはあるんですが、当時はまだ真新しさがあったんっすよ。
嬉しい。嬉しい。嬉すぃ!
嬉しさのあまり、ぼくも輪に入り、皆と抱き合った。
お前も抱き合うのかよ。
ーーあれから一週間が経った頃、皆それぞれの研究室から
ポツリポツリと顔合わせの招集が掛かり始めていたようだ。
クラスメート達はお呼ばれしたその翌日に、
「先輩たち意外と明るい人いて、なんか良かったわ」
「俺のとこなんか、こたつ+鍋パーティしたぜ!」
とかペラペラしゃべっていて、なんだか楽しそう。
それとは裏腹にぼくといえば、
あの頃初めて買ったばかりのスマホのメールをチラチラ見る。
何か掲示がでてないかチラチラ見る。
あと、向かいのホームとか、路地裏の窓とか。
招集が掛からない…。
ぼくは、ぼくたちは、研究室にいつ招集されるのだろうか…。
次回へ続きます!
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